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あの笑顔 [日記]

嬉しい出来事がありました。

中村幼稚園に、自閉症の子が在籍していました。10年以上も前の事です。年少さんから入園して2年間。年長組に進級するこの時期にお父様に辞令が出、転勤で相馬を離れたお友達です。

彼は屈託のない笑顔で幼稚園生活を過ごしていました。しかし在園期間言葉を発する事はなかったと思います。時折喃語のようなものを発していましたが、それが自分の意思なのかどうか、こちらではわからないほど。教員にも友達にも興味を示さず独りでいることが多く、しかし笑顔で園庭に座り込み砂遊びをしている姿が目に浮かびます。

クラスからホールへの移動などは、なんとなく同級生についていく感じ。いつも笑顔でいるので、行事においてもそれ自体を楽しんでいるのか、そうでないのか。保護者の方もその辺りは心得ており、お遊戯会などの本番は自主的にお休みすることが多かったご家庭です。

そのようなお子さんですので、砂を食べてしまったり、遠くを見ていたり。その都度担任は、声をかけ続けました。それでも返ってくるのは、笑顔だけです。それほどの自閉症の子です。

先に書いたとおり、途中で相馬を離れてしまったので、その後の生活は、風の便りでしかわからず、この時期になると「どうしているのだろう…」と気がかりになる記憶に残る子の1人です。

その彼が今日、遠く中通りから幼稚園に挨拶にきました!今日は、福島県内の高校入試の日で学校がお休みとのこと。支援学校もお休みになったので、何をしようかと考えていたところ、彼が中村幼稚園に行きたい!と意思表示をしたとのことです。

このポイントは「意思表示」です。一緒にこられたおばあさんの話によると、彼はやはり今でも言葉を発せないそうです。しかし、文字を書くことが出来るようになり、自分の要求を時折筆談で伝え、また今では趣味で毛筆をしているとのこと。

面影は変わらずあの笑顔なのですが、びっくりしたのはその身体の大きさ!ゆうにタカシ先生を越え、おばあさんにおんぶをしてみせるのですが、おばあさんが潰れてしまうのではないかと思うくらいに大きくなっていました。「こうしておばあちゃんのことが大好きでいてくれるんですよ」とおばあさまも目を細めて話してくださいます。学校では優秀で先生に褒められることも多く、そんな話をされているのを聞いている彼は、その大きな体をジャンプさせて喜び、懐かしそうに正門から幼稚園を眺めるのです。

そうそう、あなたの定位置は、すみれ 組前のサッカーゴールの後ろ。そこに両足を投げ出して座り、砂遊びをしていたっけね。

帰りには、やはり言葉は出ず不器用に頭を何度も下げて帰っていきます。幼稚園の時とは違ってすっかり大きくなった彼の背中に「〇〇バイバイ、ありがとねぇ〜」と手を振ると、こちらを振り返り、あの笑顔を見せておばあちゃんに肩を組んで車に乗り込みました。

あの時のタカシ先生は、あなたが何を思い、何を考え、何を感じているのか、本当にわからなかったんだ。もしかしたら、タカシ先生の事はもちろん、担任の先生も、中村幼稚園の事でさえも全然わかってないと思っていたんだ。でも、こうして月日が経って、君の心の中に、そしてあの笑顔の中に「中村幼稚園」が残っていたことを今日初めて知って嬉しく思うよ。中村幼稚園に入園してくれて、ありがとう。