SSブログ

お弁当の思い出(朝食編) [日記]

明後日発刊の幼稚園通信に「お弁当の思い出」という記事が載ります。そこで、タカシ先生のお弁当の思い出を今回は掲載しましょう。

タカシ先生は、電車に乗って高校に通っていました。部活はもちろん剣道部。朝練もあったので毎朝始発で相馬を出、1時間かけて登校し朝練を済ませて授業に臨むという日々。タカシ先生は、お腹が満腹だと身体が動かなくなるので、お昼のお弁当の他に、朝食のおにぎりを3つ。1つは電車に乗ってすぐに。残りの2つは朝練を終えてから授業が始まる前に。というルーティンです。

いつもは朝練を終え、剣道臭くなった身体を水道の冷たい水で急いで洗い、一番にクラスへ入ります。シャワールームもありましたが、朝練の時はシャワールームが開いてない上に、そんなゆったりした時間もないのです。朝練後でお腹はペコペコ。そして担任がクラスに来る朝のホームルーム前には、おにぎり2つを平らげなければなりません。

タカシ先生の高校は、1番にクラスに入る生徒がクラスの鍵を職員室に取りに行き解錠する慣し。いつもは、タカシ先生が解錠するのですが、その日は職員室に鍵がありません。朝練が長引いた為誰かがクラスの鍵を開けてくれていたのです。そこで気づけばよかった、今日はいつもより遅く時間がないということを。

そこに気づかずタカシ先生はいつもの通り、クラスの鍵のない職員室を後にし、階段を1つ上がり3階にある自分の教室へ。すでに同級生が数人戯れている教室に入って席につき、カバンから教科書、ではなく真っ先に残ったおにぎり2つとウーロン茶を。大きくて、少し固めのおにぎりの朝食を無言で食べ始める頃には、同級生が次々に教室に入ってきます。「荒、今頃朝飯か?!」なんて同級生の言葉も流し聴きながら。

いつもだったら、同級生が教室にゾロゾロと入ってくる頃には、おにぎりを食べ終え、烏龍茶で流し込んでいるのですが、その日だけは2つ目に手を付ける頃には全員が揃っていたのです。その時初めて気づきます。「やばい、もう担任がくる」私の当時の担任は高校でも最も恐れられていたボクシング部顧問の鬼の櫻井先生。怒らせると目にも止まらぬ右ストレートが飛んでくるという噂があった名物教諭。

ということもあって、残りのおにぎりを無理やり口の中に押し込み、烏龍茶で流し込もうとしたその瞬間、クラスのドアが「ガタン」と開き櫻井先生到着。運悪くタカシ先生の頭文字が「あ」なもんで、クラスの入り口に近く、もぐもぐしながら開いたクラスのドアを見上げると・・・櫻井先生見参。小脇には「閻魔帳」と呼ばれていた出席簿を持って私を見下ろし仁王立ちしています。そして開口一番、

「荒ぁ!!今ごろ朝飯とは何事だ!!」そう言って、閻魔帳を振りかざし、タカシ先生の頭を一発「ばっしーーーん!!」クラス内は失笑・・・。タカシ先生は「すんません」と頭を垂れ「以後気をつけます」とおにぎりを口に含んでモゴモゴと小声で謝り出席確認がはじまりました。

「阿部」「荒」「荒川」「石垣」・・・と順に出欠が進んでいくと、ある同級生の時に返事ではなくこんな声が「先生、荒は剣道部で毎朝始発で相馬から電車で来てるんすよ。朝ご飯食べる時間ないの知ってますか?」と。それを聞いた櫻井先生の顔は一瞬曇ったものの「そんなことは知らん」とぶっきらぼうに一言言って再び出席を取り始めます。そして全員の出席確認を終えたところでいつもの通り「礼拝堂へ移動」と言って我々を廊下に整列させるのです。

ガタガタと椅子を鳴らし、黒い学生服に身を包んだ我々がに廊下へ整列する為にクラスのドアを出るその時、教壇に立っていた鬼の櫻井が「荒、すまなかった。次は俺がくる前に済ませておけ」と、言葉で小さな右ストレートを打ち抜くのでした。

以後、タカシ先生は、毎日のお弁当おにぎりタイムを必ず確保し、それができない時には、お昼のお弁当箱のハンカチの中に1つ、おまけの残ったおにぎりが乗り、少し多めのそしてリッチなお昼のお弁当タイムを迎えるのでした。もちろん、助け船を出してくれた同級生と作ってくれた母に謝意を込めながら。

お昼のお弁当の思い出については、また次回。