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この子達

朝の登園時間に合わせて、年長さんは「0時間目」を過ごしています。幼稚園には、小学校などで使っている「時間割」というものはありませんが、中村幼稚園では「大体この時間にはこの活動ね」という風に毎日おおよその時間に同じような事をしています。

そしてこの便宜上「0時間目」と言っているこの時間は、自由遊びの時間。朝クラスに入る前にカバンをテラスに放り投げて「朝からエンジン全開だぜー!」とサッカーをしたり、鬼ごっこをしたり、かくれんぼをしたり、園庭を散策してみたり、そりゃまぁ好きなように好きな事をする時間なのです。もちろんこの時期は寒い日もあるのでクラスに入って「う〜さみーなー」なんてストーブに当たっても良いし、シール貼りや着替えなどの朝の活動をさっさと済ませてしまってもよろしい、なんでもありな時間。それが0時間目なのです。

これは年長さん特有の時間なのですが、その間タカシ先生は正門で登園してくるみんなに「おはよー」の声かけです。最近ご挨拶が上手になって、「あけましておめでと」なんて毎日言ってくれる年少さんもいたりして。そして視線の向こうの園庭では年長児が遊び、クラスへ吸い込まれていく年中さんや、朝の打ち合わせを終えた教員が、学年ごとに「今日はどんな一日になるんでしょうかねぇ〜」なんて肩を並べてクラスへ向かう姿も見られます。

そんな時間に「この子達」はタカシ先生をからかいにやってきます。なんだか新年早々、この子達は鬼ごっこを「タカシ先生からかいごっこ」へ進化させ、何が何でもタカシ先生に追いかけてもらう事を最大の目的としておるのです。

年少さんの登園に「おはよー!」なんて挨拶をしていると、「(うっしっし)」と背後から近づき「タッチー!」なんてタカシ先生のお尻にタッチして「鬼ねおにーーー!」なんて勝手にタカシ先生を鬼にしてしまうのですが、当のタカシ先生といえばぜーんぜん相手にせず、後から来る年少さんに「おはよー!」なんて言っているのですからつまらない。

でも、この子達はあきらめません。今度はお尻じゃなくて正面から近づいてきて「タッチー!!」なのです。それでもタカシ先生は、この子達よりも可愛い年少さんに「なに?今日は幼稚園来たくなかったの?」なんてちょっとご機嫌斜めの年少さんと手をつないでクラスに行ったりするものですから、なおさらつまらない。

でもでもこの子達はあきらめません。何が何でもタカシ先生に追いかけてもらおうと、あの手この手でちょっかいをかけてくるのです。

そんなこの子達に、タカシ先生は何も言わず「ギロリ」と睨みをきかせました。すると、一斉に「んぎゃぁ!!!」なんつって四方へ散ります。しかし恐いもの見たさというものは、辞めようにも癖になるもの。再びタカシ先生の足下にきて「タッチ」だの「でっかい目!」だの「マスクの下はどうなってるんだ?!」だの「耳が見えない!」だのありとあらゆる声かけをし、タカシ先生の興味を引くのであります。

そんな誘いに乗るタカシ先生ではありませんがこの言葉には最大の睨みを利かせるのであります。

「おじーちゃーーーん!!!」

この声かけにはさすがのタカシ先生も、睨みにつけくわえ、ビームまで発射してしまったものですから、この子達は四方どころか、八方にまで散り、中には正門から年長のクラスまで「ぴゅーーー」っと走って逃げる娘までいるのでありました。

あ〜ぁ。あれは忘れもしない30代。年少児から心の声とも思える言葉で、人生で初めて「おじさん」と言われたときのショックといったら筆舌しがたいものがあったものですが、なんだかこの子達から言われた「おじーちゃーーーん!!!」は、そんなにはショックではありませんでした。タカシ先生も随分免疫がついてしまったものです。

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この子達。「タカシ先生に構ってほしい病」に罹ってしまったようです。